安倍とトランプがメッセージを送った統一教会のイベント(THINK TANK 2022希望前進大会)について知られていない3つの事実

 少し今更感がありますが、この話題を。

 昨年9月12日に統一教会の関連団体(UPF)が主催するイベント(THINK TANK 2022希望前進大会)に安倍前首相やトランプ前アメリカ大統領がメッセージを動画で公開し、Twitterを中心にSNS上で話題になりました。

 これに対して、『しんぶん赤旗』「やや日刊カルト新聞」や全国霊感商法対策弁護士連絡会が批判的な立場から見解を述べています。それぞれの立場の共通点として、霊感商法等の社会問題を起こしている団体に政治家が関わることに懸念を示しているということが挙げられます。

 この立場は理解します。しかし、これらの記事や抗議文では触れられていない重要な3つの事実があり、それについて認識しなければ、正確な事実把握は困難だと考えています。

 本記事では、国内メディアではほとんど触れられない3つの事実(出典の多くが韓国語の記事になりますが、翻訳ツールを利用すれば大体の内容は把握可能だと思います。また、主催者側UPFの英語記事も載せます)について説明し、それらの事実から、このイベントの位置づけ、安倍やトランプが登場した背景等を、従来とは違った視角から捉え直したいと思います。

 先に述べておけば、本ブログの筆者は統一教会2世であり(信仰の有無は明記しません)、この記事もその立場が反映されているであろうということは留意してください。3つの事柄については、事実に沿って説明しますが、その事実の選定やそれについての見解には、自覚/無自覚的に私の立場が多少なりとも影響していると考えています。

 

知られていない3つの事実

1.安倍とトランプ以外にメッセージを送っていた政治家たち

 日本のSNS上では、本イベントにメッセージを送った安倍とトランプばかりが注目され、両者の立場から、また統一教会のイメージから、いかにも「極右」的な印象が強調されていたように思います。

 しかし、事実として韓国では右左問わず、大物の政治家がこのイベントに関わっています。韓国メディア(ソース① ソース②)や主催したUPF側(ソース(英語))によれば、オ・セフンソウル市長、パク・ヒョンジュン釜山広域市市長、ヤン・スンジョ忠清南道知事、イ・シジョン忠清北道知事、ソン・ハジン全羅北道知事、イ・チョルウ慶尚北道知事、チャン・ヒョングク京畿道議会議長、カク・ドヨン江原道議会議長らが基調演説をしたり祝賀メッセージを送っています(「やや日刊カルト新聞」ではこのことについて少しだけ触れています)。また、元国連事務総長潘基文がUPF傘下の組織「THINK TANK 2022」の委員長を務めているとのことです(ソース① ソース② 主催者UPF側の記事(英語))。さらに、昨年5月の同団体のイベントでは、文在寅政権の初期に首相を務めた丁世均もメッセージを送っています(ソース 主催者UPF側の記事(英語))。

 このように韓国国内では、右左問わず、大物政治家たちが本イベントに何らかの形で関わっています。私の見解としては、安倍とトランプのみを強調し、特定の方向に印象づけるのは不誠実な議論のあり方ではないかと考えています。もし、政治家が統一教会に関与することを問題視するならば、韓国の政治家たちにも同程度に触れる必要があるだろうし、その関与の深さ、幅の広さを考えると、韓国という国家に対して抗議をしてもいいのではないでしょうか。

 

2.韓国における統一教会の位置づけ

 統一教会は、日本では霊感商法等の問題を起こし、反社会的団体としての「カルト」と認知されています。しかし、韓国では「異端」「エセ宗教」と考える人は多くいる一方で、反社会的な存在とまで考える人は多くありません。(このことは、統一教会に批判的な立場を取る日本の学者も認めています*1

 (韓国内での統一教会の評判については、下の記事の後半でも触れています。韓国人の生の声も多く取り上げているので、統一教会に対する韓国内のリアルな雰囲気を感じ取れるかもしれません。)

uc2.hatenablog.com

(下の記事でも私自身の経験から韓国人の統一教会に対する感覚について記しています。)

uc2.hatenablog.com

 韓国の統一教会は、韓国の芸術系中学・高校の中でナンバー2に位置づけられるエリート学校*2や、非信者が多く通う大学*3を運営していたり、韓国のサッカー連盟の会長に統一教会の幹部が任命されたこともあったり*4、有名企業*5も経営していたりと、社会の様々な部分で影響力があります。

 本イベントは、このように韓国社会で大きな影響力を持つ(そして日本におけるように「反社会的」とはみなされていない)統一教会という団体が韓国国内で主催したということを理解する必要があるでしょう。

 参考として、韓国の大手放送局のMBNが、昨年5月にUPFが主催したイベントについて中立的にレポートした動画と、これまた大手放送局のTV朝鮮が、同団体のイベントの放送予告のCMを流した(実際にTV朝鮮でこのイベントが放送されたようです)動画を貼り付けておきます。韓国語が分からなったとしても日本語圏の統一教会に関する報道とは雰囲気がだいぶ違うことが伝わると思います。

youtu.be

youtu.be

3.本イベントの目的とそれに関連する統一教会の強み

 日本のメディアやSNS上では、「統一教会系のイベント」という話だけで盛り上がり、このイベントが何を目的としていたのかについて(少なくとも私が観測した範囲では)触れられることはほとんどありませんでした。しかし、「1.安倍とトランプ以外にメッセージを送っていた政治家たち」で述べたように、韓国国内の多くの大物政治家たちがメッセージを送るほどのイベントが、単なる内輪向けの宗教的行事だったとは考えにくいでしょう。実際、本イベントは、対外的な目的も持ったものでした。

 このイベントの目的の一つは、朝鮮半島の平和的統一を目指す組織(韓半島平和サミットやTHINK TANK 2022)の発足を祝うものでした。

 これと関連して、一つ補足するならば統一教会は、反共という立場にありながらも北朝鮮とのパイプが太いということです。教祖の文鮮明は、北朝鮮を訪問し金日成と会談をしたことがあり、いまでも教会は北との交流があると言われています。

 

 つまり、本イベントは、「1.安倍とトランプ以外にメッセージを送っていた政治家たち」や「2.韓国における統一教会の位置づけ」で述べたように、韓国国内の大物政治家が関与し、社会的にも影響力があり、北朝鮮とのつながりが強いながらも反共をアイデンティティとする、統一教会という団体が南北統一のための組織を発足し、それを祝うためのものだったと言えます。

 私としては、以上のことを考慮に入れると、統一教会が、朝鮮半島の多くの人々の切実な願いである南北統一を目指す組織を設立するならば、韓国内の政治家がこれに関与するのも普通のことだと思います。北と強いコネクションがありながら反共を政治的アイデンティティとする組織が南北統一のためにこれだけの資源を動員するに至ったーーこれが、伝統的に「アカ」を恐れながらも南北統一の道を探ってきた南側にとって、何を意味するのか日本人はもう少し考えたほうがいいのではないでしょうか。

 国外の政治家であっても、南北統一(日本の立場からすれば外交・安全保障に関わる問題)の重要なファクターとして、一定程度この組織に賭けておくのは、単なる「統一教会との怪しい付き合い」に留まらない、政治的打算とも言えるでしょう。

 もちろん、霊感商法等の社会問題を起こした団体ということは懸念事項であるのはもっともだし、批判的に言及するのも一つの立場として尊重すべきと思いますが、少なくとも上記の3つの点に言及しなくては健全な議論が行えないと考えています。また、なぜ、安倍がいまになって、(いままで統一教会とのつながりが水面下のものであったのに)統一教会のイベントに表立って登場したのかについてもよく理解できないでしょう。

 

最後に

 この記事を書いた理由は、日本語圏のメディアでは触れられない3つの事実について紹介したいから、というものだけには留まりません。 

 「統一教会」がテーマになると、あまりに雑な事実認識がまかり通ってしまうこと、そしてそれが統一教会員への人権侵害にも実はつながっている、と憂いているというのがあります(もちろんこれを言うと、統一教会こそが人権を侵害していると非難する人が多くいるのも理解しているし、その見方が妥当なことが多いことも把握しています)。そして、このような「カルト」宗教に対する「雑な事実認識」こそが、宗教2世が多くの困難を抱える一つの原因になっていると考えています。

 望まずに統一教会の2世として生まれ、宗教内/宗教外の社会での理不尽さを経験してきた立場からすると、このことを問題化しなければならないと思っています。

 後日、機会があれば統一教会員に対する人権侵害についても記事にしたいと思います。

*1:櫻井・中西『統一教会』407-408頁。

*2:仙和芸術中学・高校。

*3:鮮文大学。

*4:当時、統一教会幹部であった郭錠煥は、2005~2010年に韓国プロサッカー連盟会長を務めた。

*5:一和など。